最終章『会社、辞めます』と上司に言った件

最終章です。

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入社して5年目が終わりそうなある日のこと。

私は中央研究所の所長に呼ばれました。

 

研究者としてやっと1人立ちできるかな・・と思っていた頃。

職場のエースでも何でもないため、研究内容は二番煎じ、いや三番、四番当たり前。

それでも毎日自分のテーマにがむしゃらに取り組んでいました。

 

会社員をしているとある法則に気が付きます。

 

与えられたテーマの注目度が高い(マーケットが広い)と評価されやすい。

 

そう、

置かれた場所で咲いても、めっちゃ差がでるのよ の法則

葉桜

そりゃそうだ。

全米で音楽部門1位を取るのと、どこぞや?というマニアックな国での1位だと、世界での見られ方は違います。

 

当時、注目度の低いテーマにどれだけ勤しんでも、極めて平凡な評価しかもらえませんでした。

入社数年くらいだった私は、その法則に気が付いておらず、自分のやり方が悪いんだ。能力が足りないんだと思い込んでいました。

 

まぁ、サラリーマンですし、この法則は常識です。

しかし経験の浅い私は、

【出世している人=能力が高い】

と思い込み、自分もそうなるべきと信じていました。

 

勤続15年以上になると、あれ?違うなぁこの人・・と気が付くのですが。

 

で、本題に戻ります。

所長に呼び出されました。

 

「ぽにさん異動ね。技術系の違う部門に行って。」

 

とのこと。

あぁ、能力が低いと異動になるのね・・

新しい部署では私のしたいテーマは無理だろうな。

 

いつか研究者として、これだ!というテーマで世界と戦えたらな・・

 

中央研究所の自席で、自分の荷物をまとめながら、目の前が滲んでいました。

 

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さ、佐々木君、

 

医学部なの?

 

医学部医学科。

しかも国立大学。

 

最難関中の最難関やで。

 

なんで、ここにいんの?

親後さんは何て言ってるの?

どうして?どうして?

 

オバちゃん丸出しの質問。

 

「ははは。確かに珍しいですよね。」

 

もしかして、大学で遊び過ぎて単位が取れなかったとか・・

 

「ははは。ご心配なく。僕、幼少期からずっと1番だったので、大学でも問題ありませんでした。」

 

・・サラッと言うね。

 

さすが。国立大医学部に現役で入る人は違う。

嫌味すら感じないわ

 

古い考え方かもしれないけど、医学部って難しいやん。

親御さんもかなり期待してるんじゃないの?医師にならなくて良いの?

 

「う~ん。親は医師ではないですし、継ぐクリニックもないです。好きにしろと言ってます。」

 

そうか。

素敵な親御さんやな。

 

自分だったら言えるだろうか・・自信ないわ。

 

どうやら佐々木君、就活では『この分野』と絞り、関連の研究をしている企業だけを受けに行ったとのこと。

数社内定をもらったけど、ここに決めた。

 

そう、私、

ガッツリその分野の専門

 

「今後、いろいろ教えて下さい。僕、プログラミングも全くなんでその他も含め、ぽにさんから指導を受けたいです。」

 

おっ、おう。

 

私、

辞めようとしとるで(滝汗)。

 

言える訳ない。

変な汗出るわ。

 

でも、解せない。

医者の方が社会的地位も、給与面でも、女の子にモテ度でも、全然違うハズ。

 

ええんか?

涼しい顔をしている佐々木君。

凄いな。

 

新人類だわ。

世の中ってここまで進化したの?

 

佐々木君は言いました。

 

「僕、山中伸弥教授に憧れているんです。」

 

おっ、おん。

そうなんだ。

 

「医学の知識を持ちながら、研究者として世界で活躍してるじゃないですか。僕もあんな風になりたくて。」

 

へ~

スバラシイね。

 

・・あかん。

キラキラして、目がかすむ。

眩しさを堪えながら何とか質問します。

 

でも、なぜこの会社のこの部門に?

 

「ここの研究内容、めちゃくちゃ面白いじゃないですか。」

 

あっ、うん。

そうかな。

 

 

「ここなら、世界と戦えるかもと思って。」

 

世界と戦う・・

 

デジャブ。

 

15年以上前の自分がフラッシュバックします。

 

私は、世界と戦うって思い入社しましたが、恥ずかしくて周囲に言えませんでした。

あんた実力ないやん。

何か特色あるの?って思われても嫌だったので。

 

世界と戦う・・

その想いを胸に秘めながら、

異動の通達を受け研究所の荷物をまとめ、人知れず、肩を震わせていました。

 

何だろ。

全てサラッと言ってるのが凄い。

 

彼は昨今の医学業界に関することも教えてくれました。

昔よりも医師の待遇や地位、環境もそこまで良くないことや、自分の中では研究するなら民間で戦った方が面白いと思っていること。

 

「ぽにさん異動は4月からですよね。本当に色々教えて下さい。」

 

と、10分前まで辞めることばかり考えていた人に懇願してきました。

 

そうか・・

彼は、

『置かれた場所』や『評価を受けやすいか否か』なんてどうでも良いんだ。

 

『世界と戦う』

だけに焦点を絞ると、この部門は確かに戦える余地は十分にある。

比較的人数の少ない部署ですし、オッちゃん達はむしろ喜んで世界に押し出してくれるだろう。

遠慮すべき社内競合の先輩がいるわけでもない。

 

・・・うん。

なんかね。

 

ガツン!!!!!

 

とやられました。

佐々木君に。

 

と同時に、10年前の私が見たらヨダレ垂らして喜ぶ環境にいることに気が付きました。

部長からも、「君の好きなことを研究して良いから。自由な発想で。」と言われています。

 

確かに、なかなか社内昇級はしませんし、評価もう~~んな部分はあります。

給与もアレレでもある。

 

でもね、こと研究に関しては、

好待遇

 

後輩は至極優秀だし、おっちゃん達は頑張る人の邪魔はしない。

 

うん。

何だかな~~は満載だけど、

恵まれている部分も大いにある。

 

やるか?私。

 

・・辞めることはいつでも出来る。

それに今、転職をしたからと言って、直ぐに世界と戦える環境に置いてもらえるかは怪しい。

 

ここに残れば、

4月から即、世界戦を睨んだ内容で研究が可能

 

念のため、佐々木君にもしもこの部門が面白くなかったり、やりがいなかったらどうするの?と聞く。

 

「そうですね。2年経って面白くなかったら、退職を考えますよ。」

 

そりゃそうか。

今の若者は終身雇用なんてオワコンと思っているに違いない。

現役の40年近くを同一の会社で働く!と考えている人は少数派だろう。

 

「まぁ、いつでも医師になれるのもあります。もちろん、再び大学で学ぶのもアリだと思っています。とにかく今は、ここで頑張ります。」

 

そっか・・じゃあ、2年はいるんだね。

 

2年後の彼はどんな景色をみているのだろうか。

どんなことを考えているんだろう・・

 

ところで、佐々木君のフルネーム教えてよ。

 

「はい。佐々木○○です。」

 

○○という名を聞いて、言葉が詰まりました。

うん。

 

長男と同じ名前でした。

 

何なんだ。

この縁は。チッキショー

 

詰まる胸を押さえ、言葉をひねり出しました。

 

「よし。4月から一緒に頑張ろうか。よろしくね。」

 

きっと、今年も社内昇級アセスメントには呼ばれず、

給与も上がらず、

うーーんな面はあるでしょう。

 

馬鹿な選択を・・と思っている自分もいます。

 

でも、もう少しだけ、

もう1回、頑張ってみます。

 

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ABOUTこの記事をかいた人

10数年前の入社当時は、バリバリ系(自称)を目指してヒジ張って働いていました。 メディアに紹介され、優秀な女性として会社の重要ポストに・・と本気で考えていました。 現実は全く違い、自分の中で上々の結果だと思っても平凡な評価。現実と理想の違いに悶々とする日々。 結婚、自らの転勤、DINKSを経て、待望の子供を出産。 2回の育休を取得し、現在4歳、6歳の育児中。 もうすぐ3人目の出産を控える。 約50平米、賃貸マンションを何とか快適にと模索の日々。 夫婦共に技術系総合職、 お互いの実家は遠方(完全核家族)、 バタバタの育児、 主人は早朝(繁忙期は5時)に出社、 夫婦共に遠出の出張も・・ どこまでいけるか奮闘中の共働家、ともばたけ!