大学時代のある夏。
「ぽにって、もう二十歳になってる?」
そこまで仲の良くなかった友人より声をかけられました。
夏前に誕生日を迎える私は、そういや、もう二十歳なんだ・・と思いながらそうだよと返事をしました。
「ちょうどいい!お願いがあるんだけど・・」
彼女曰く、知り合いからエステのモニターを探してくれと頼まれた。しかも二十歳を過ぎた子を探していると。
ふーん。
「体験だけ。体験だけ。お願い!」
分かった。
軽く受けてしまった私ですが、その後、大変なことが待っているなどこの時知る余地もございませんでした。
ベランダからの光は、ただただ気持ちいいものですね。
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先日、出張先で空き時間ができました。
一緒に来ていた後輩とともに、家電量販店へ。
業務で使うカメラを物色するために、売り場はどこだ・・と探していると、旦那の欲しいものがございました。
我が旦那はオシャレに無頓着。タバコやお酒も嗜まず、物欲がそこまでない。
しかし、その彼が欲しいと言っていたものがそこに。
【髭用 脱毛器】
頭は薄くなってきたのに、髭は年々濃くなるもんね。
近頃では多くの女性が多かれ少なかれ【脱毛】という扉を叩いているような気がします。格安エステだったり、美容クリニックだったり。
サービスも多岐に渡ります。
「おっ!こんなん売ってるんすか。」
後輩が手に取って、眺めています。利発な彼は、さっそく店員さんを呼び、
「僕、つかってみてもいいっすか?」
店員さんは、どうぞどうぞと使わせてくれました。
ポチっと押すと、赤色のフラッシュが焚かれ、毛根を照射している・・ようです。
何度もパチパチという音が聞こえます。
「あちっ!何か、熱いっす。」
毛根を照射したら、熱いもんなぁ・・とふんわり考えます。
「いや~。僕、ぽにさんのおかげで人生初の脱毛が体験できましたよ。面白いっすね。」
そうか。そりゃよかった。
話しながら、私は過去を思い出します。
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そのビルは、取り立てて怪しい雰囲気ではございませんでした。
定員さんもニコニコ。
痩せるためのエステコースか脱毛コース、どちらを体験されますか?
と説明。
私は、脱毛を選びました。
二十歳前後はお肌の露出度も高く、ずーっとムダ毛が気になっておりました。ここいらで、綺麗にしてもらうのも悪くない。
渡されたバスタオルを巻き、ガウンを着て、脱毛処置室へ。
さて、施術しましょうと取り掛かったら、お姉さんが怪訝な顔。
「ぽにさん、毛の量が多いですね。当店に通った方が貴方のためですよ。」
えっ、そうですか?でも、学生でお金もないんですよ。おいそれという訳には・・
「脱毛は一生モノです。今しておいたら、ずーっと楽ですよ。」
いつの間にやら、施術は中断され、どれだけ通った方が良いかコンコンと語られることに。
バスタオル1枚のまま、何か良く分からない小さな部屋に通されました。
そして、お姉さん達が入れ替わり立ち代わり、『脱毛の必要性』を語ってくる。
いや~お金がなくて・・と言っていても、分割でと食い下がる彼女達。
ちなみに、1か所42万円。
当時の私のアルバイト代は月に3~5万円程度。その中からサークル代や友人らとの交際費、洋服代を捻出していました。
貯金なんてほとんどない。
42万?無理無理。
いやだ。帰りたい。
ところが、しぶとく交渉をするお姉さん達。ボスみたいな人も出てきて、施術した肌を見せて、
「私のようになりたいでしょ?」
と披露してきます。
あなたのようにはなりたくないです。と心の中で叫びながら、バスタオル1枚の二十歳の私は必死の抵抗。
だんだん、悟ってきました。
あれだ。
これ、契約しないと帰れないヤツやん。
昔、家庭科の教科書に無理やり買わされているイラストがあった。正にあれ。
こんな人いるんだ。断ればいいのに~と思っていましたが、そのイラスト、はいはーい!私でーす。
その時の対処法は、『クーリングオフ』じゃなかったかな。
机の前に置かれた契約書をチラッと裏返します。
【クーリングオフ】について。
書かれている!これだ!!
本当は、はっきり「契約しません。帰ります。」と言うべきでした。ただ、無知でビビりの私は、相手の顔色が急変するのが怖くて仕方ありませんでした。
そして、その場の雰囲気にまんまとのまれ、契約書にサイン。
お姉さん達は上機嫌で、残りの施術をしてくれました。
私は頭の中で、『クーリングオフ、クーリングオフ』と何度も繰り返し、すでにだいぶ暗くなってしまった街からいそいそと逃げ、自宅に着きました。
母に相談するという思考は毛頭もございません。心配や迷惑をかけたくない。
とにかく明日、お店に電話して断ろう。嫌な雰囲気になっても所詮電話。突っぱねることも可能。
42万円と書かれた契約書の控えが私のカバンの中に。何という大金・・
これは絶対なくしちゃダメ。
生まれて初めて『不安で眠れない』という夜を体験しました。
朝が来て、私はその日の講義を休み、自宅からエステに電話をかけました。
何度かのコール・・
あれ?出ない。
今日、平日だよね。
コール・・・
これを何度も繰り返し、10回以上かけても、営業しているであろう時間にかけても、
誰も出ない・・・
次回に続く!
読んで下さり、本当にありがとうございます。
▲シンプルにはいかないものですね。人生は・・